研究概要 |
フグ目及びその近縁群は腹鰭など骨格の単純化が段階的に見られ,古くから解剖学者の研究対象となってきた.一方これらのグループは深海・浅海・淡水域といった多様な生息域を持ち,ミトコンドリアゲノムによる系統解析によると,その系統関係は従来の形態形質に基づいて推測されたものよりも生息域に深く関係している可能性が高いことが明らかになっている.本研究はミトコンドリアDNAや各遺伝子の構造の解明,及びその情報に基づいた系統関係や分岐年代を解析し,生態や形態などの比較を行いフグ目およびその近縁群の適応放散過程を明らかにすることが目的である. 2011年度は,主にフグ目に近縁なグループに含まれるスズキ目スダレダイ科のミトコンドリアゲノムについて解析を行った.ミトコンドリアゲノムは通常16000bpほどであるが, Drepane africana のミトコンドリアゲノムが24000bpを超える条鰭類最大の大きさを持ち,スダレダイ科の他の2種についても22000bpを超える非常に大きなミトコンドリアDNAを持っていることが分かった.後生動物のミトコンドリアゲノムは遺伝子や調節領域など何らかの機能を持つ領域がほとんど隙間なく並んでおり,遺伝子重複が起きた場合にも重複遺伝子や非遺伝子領域など不必要な領域は速やかに排除され,コンパクトなゲノム構造を維持している.しかし,スダレダイ科全3種のミトコンドリアゲノムのサイズが非常に大きいのは,3種でほぼ共通して大規模な配置変動と複数の遺伝子重複,多くの非遺伝子領域が見られたことが原因であった.また,それ以外にも,フグ目ハリセンボン科ハリセンボン属についてのDNA解析により,従来の分類に使われた棘鱗の形態形質よりも卵の性質や分布域のほうがより系統類縁関係を反映している可能性が高いことを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
DNA解析に必要なサンプル収集がほぼ完了した.さらに,前年度に本研究の大きな目的のひとつであった淡水フグの淡水進出過程の推定に関する論文を発表し,本年度はスダレダイ科のミトコンドリアゲノムの構造解明に関する研究が一段落した.それ以外の課題である,系統解析や分岐年代推定についても順調に進んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
収集したサンプルからまだ得られていないミトコンドリアゲノム及び必要な核遺伝子の配列決定を行う.また,データがまとまり次第,最適な系統解析法及び分岐年代推定法の探索を行い,系統関係・分岐年代を推定する.そして確立された系統枠に基づいてフグ目及びその近縁群の様々な生息域への適応放散過程について検討する.その結果に基づき学会発表と論文投稿を積極的に行う予定である.
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