フグ目及びその近縁群は深海・浅海・淡水域といった多様な生息域を持つ.本研究はDNA を用いてフグ目およびその近縁群の系統推定及び分岐年代推定を行い,これらの分類の整理や適応放散過程を明らかにすることが目的である. まず,フグ目の中で唯一純淡水種を含むフグ科について,新たに31種のミトコンドリアゲノム(ミトゲノム)全塩基配列を決定し,その配列に基づいてフグ科の系統関係と淡水域への進出過程の推定を行った.解析の結果,純淡水種は南アメリカ,中央アフリカ,東南アジアのグループがそれぞれ単系統群であったが,生息環境の祖先状態の推定結果からフグ類の淡水域への進出は各大陸で独立して起こった大規模な地質学的なイベントが原因であることが分かった. 次に,外洋に生息するマンボウ類についてもDNAや形態形質により解析を行った.その結果,日本産のマンボウ属について2種を識別し,そのうちの1種にウシマンボウという新たな和名を与えた.またマンボウ属魚類の成魚は巨大になるため形態による識別が困難であることや,DNA配列の決定には高価な実験設備や試薬などが必要なことから,マルチプレックスPCRによりDNAの断片を増幅させ,増幅断片の長さを調べるだけでこの2種を簡便に識別できるよう,マルチプレックスPCR用のプライマーを開発した. また,フグ目に近縁なグループであるスダレダイ科魚類全3種のミトゲノムを調べたところ,それぞれ通常の1.5倍ほどの大きさのミトゲノムを持つことを発見した.そこで本科の系統関係とミトゲノムの進化について調べたところ,本科のミトゲノムの構造の特徴や,姉妹群のマンジュウダイ科魚類のミトゲノムが脊椎動物に一般的な構造であることなどから,本科の巨大なミトゲノムは一般的な構造を持つ3種の共通祖先のミトゲノムが全領域にわたって重複し,一部が抜け落ちることで現在の構造になったと結論付けた.
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