キク科ハマベノギク属植物の形態的適応を明らかにするために、本年度は材料として、この属で最も一般的なヤマジノギクと蛇紋岩地に特異的に産するヤナギノギクを用いて、葉と細胞数の計測を行った。ヤナギノギクはこれまで継続的に調査を行ってきた高知県高知市一宮の集団に加えて、同県同市円行寺の集団、同県高岡郡日高村の集団、さらに愛知県豊橋市の集団を、それぞれ1個体から5枚の葉を1集団から約30個体ずつ用いて、比較解剖学的計測を行った。その結果から、ヤナギノギクの葉の形態はそれぞれの集団でヤマジノギクよりは有意に細いものの、それぞれの集団間で形態的に分化していることが明らかになった。特に、高知市一宮の集団は、調査に用いたヤナギノギクの中で最も細いことが明らかとなった。また、解剖学的計測の結果から、本研究で用いたヤナギノギク集団のうち、高知市円行寺の集団、豊橋市の集団、高岡郡日高村の集団は、これまでに明らかになっていたヤナギノギクの狭葉化のパターンとは異なることが明らかとなった。また、これらの集団が高知市一宮の集団と解剖学的に異なるパターンを示す結果は、既に明らかとなっているマイクロサテライトによる遺伝的類似度の結果をほぼ支持した。本研究で用いた集団のうち、特に日高村の集団の解剖学的結果は、これまでに明らかとなっているヤナギノギクの結果と、本研究で明らかとなった一般的に見られるヤマジノギクの結果の中間的な値を示したことから、この集団は過去に交雑を起こしていたのではないかと推察した。
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