軍隊アリのなかで調査の進んでいないヒメサスライアリとハシリハリアリに焦点を絞った調査として、カンボジアとフィリピンで野外調査を行った。カンボジアは過去に野外調査が行われたことがなく、シェムリアップ近郊のアンコールワット遺跡の周辺で徹底的な調査を行った。フィリピンでは、これまで(1950年代以前)にミンダナオ島のみで調査が行われてきたが、今回はルソン島とミンドロ島で調査を行った。どちらの調査においても、これまでに得られたことのないヒメサスライアリとその共生者を得ることができたが、残念ながら共生するハネカクシを得ることはできなかった。ただし、カンボジアにおいて、ハシリハリアリの巣より、まったく未知のハネカクシを採集することができた。ハシリハリアリには原始的な形態を保持する共生ハネカクシがおり、旧世界の軍隊アリ共生ハネカクシの進化をときあかす重要な材料を得られたことになる。また同時に、得られた標本により、分類学的な研究と分子系統解析も行った。分類学的な研究では、マレーシア、タイ、カンボジアで得られた標本のなかに、10種以上の未記載種を確認し、現在記載論文の準備を進めている。また、ミトコンドリアDNAと核DNAを用いた分子系統解析も進めており、きわめて速い形態の進化の様子や寄主アリにあわせて多様化した適応放散の可能性が示唆されるきわめて興味深い結果が得られた。今後、随時論文として発表していく所存である。また、軍隊アリとシロアリの捕食被食の関係で、進化の過程で共生生物が入れ替わることがあり、シロアリと共生する昆虫の多様性に関する研究も関連して行い、いくつかの論文を発表した。また、ハネカクシの形態学的研究の一環として、自由生活種の記載分類も進めた。
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