研究概要 |
昨年度,相模湾初島沖の深海メタン湧出域に生息するシロウリガイ類とシンカイヒバリガイ類の鰓の一部から抽出したDNA及びRNAを用いて,PCR法によりアルベオラータ生物群の18SrRNA遺伝子を特異的に増幅した結果,シロウリガイ類からはアルベオラータに由来する遺伝子配列は得られなかったが,シンカイヒバリガイ類からは新奇なアルベオラータに由来する遺伝子配列が得られた。本年度は,多細胞動物以外の真核生物18SrRNA遺伝子を増幅するPCR検出系を確立し,シロウリガイ類とシンカイヒバリガイ類のDNAを用いて再調査した結果,上記の検出された新奇なアルベオラータ生物がシンカイヒバリガイ類だけではなくシロウリガイ類の体内(鰓)にも存在することが明らかとなった。得られた新奇アルベオラータ生物の18SrRNA遺伝子の塩基配列情報を基に,それを特異的かつ極めて鋭敏に検出するPCR検出系も確立した。相模湾初島沖の水深800mと水深1200mのそれぞれのシロウリガイ類およびシンカイヒバリガイ類集団における該当アルベオラータ生物の「感染率」を,本研究において確立した特異的PCR検出系によって調べたところ,シロウリガイ類では水深1200mの湧出域で感染率が高く,シンカイヒバリガイ類では逆に水深800mの湧出域で感染率が高かいことが明らかとなった。感染率の高かったシロウリガイ類およびシンカイヒバリガイ類コロニー周辺の底泥からは該当アルベオラータ生物の遺伝子配列は検出されなかった。今回得られた研究結果は,本原生生物の分散能力等を含めた生態を明らかにするための重要な知見となりうる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
発見された新奇アルベオラータ生物が,水深の異なるシロウリガイ類およびシンカイヒバリガイ類集団において,大きく異なる「感染率」を有する事象を明らかにしたことは,該当原生生物の生態学的役割を解明する上で重要であり,したがって,本研究は順調に進展していると言える
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今後の研究の推進方策 |
アルベオラータ生物に感染したシロウリガイ類およびシンカイヒバリガイの鰓組織と,感染していないそれらの個体の鰓組織を詳細に観察,比較することによって,該当原生生物の宿主に対する影響を推察する。また相模湾初島沖以外の化学合成生態系に存在するシロウリガイ類およびシンカイヒバリガイ類においても,このアルベオラータ生物が存在するか否かを,今回確立した特異的PCR検出系を用いて調査し,そのdispersal potentialを推察する。
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