研究課題
本研究では、深海底熱水噴出域に優占し、かつ重要な一次生産を担う化学合成独立栄養細菌に感染するファージの単離・性状解析を行い、化学合成独立栄養細菌対ファージの両者の生物学的相互関係を解明することを目的とする。昨年度の研究成果により、深海熱水噴出域から単離した水素酸化や硫黄酸化を行う化学合成独立栄養細菌48株のうち、13株の細菌で溶原性ファージの存在が確認されている。このうち、既に宿主の全ゲノム塩基配列が決定されているNitratiruptor sp.SB155-2株の溶原性ファージNrS-1について、詳細な性状解析を行った。形態学的分類では多角形の頭部と非収縮性尾部を有するSiphovirus科に分類された。本ファージの全ゲノム塩基配列は全長37,159bpの環状ゲノムとしてアッセンブルされ、宿主ゲノム上に予測されたプロファージ領域の配列と完全に一致した。一方、ファージ粒子内には末端重複を有する直鎖状二本鎖DNAが含まれていた。本ファージゲノム上には51個のORFがコードされており、各ORFの機能を予測した結果、インテグラーゼ・遺伝子スイッチ・複製・組換え・パッケージング・構造タンパク質・溶菌関連といった機能に分類された。相同性検索により、既知ウイルスとの相同性が極めて低かったことから、Siphovirus科の中でも極めて新規なファージであることが示された。また、本ファージは、病原菌を含む他のEpsilonproteobacteriaのゲノムと高い相同性を示す遺伝子を有しており、Epsilonproteobacteriaとそのファージの進化において重要な役割を担っている可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
計画の予定通り、熱水噴出域からの化学合成独立栄養細菌に感染する溶原性ウイルス(13株)を単離することに成功しており、さらにその代表株について、性状解析・ゲノム解析を終了している。
ゲノム解析を終えた代表ファージ株NrS-1と同様に、熱水噴出域から分離した他の化学合成独立栄養細菌(EpsilonproteobacteriaおよびAquificales)から誘発された溶原性ファージ12株についても同様に性状解析およびゲノム解析を行い、それらのファージの系統学的分類および多様性を明らかにする。
すべて 2012 2011
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Appl. Environ. Microbiol
巻: 78 ページ: 1311-1320
DOI:10.1128/AEM.06491-11