ミトコンドリアを構成する蛋白質の大部分は細胞質においてプレ配列がN末端に付加された前駆体蛋白質として合成される。プレ配列は15から70残基程度であり、多様な配列中に約5残基からなるコンセンサス(φχχφφ:φは疎水性残基、χは任意のアミノ酸残基)が明らかになっている。このプレ配列を認識するのがミトコンドリア外膜に存在するTom20蛋白質である。我々はTom20によるプレ配列の認識の広い特異性について、構造を基盤とした理解を目指している。しかしTom20とプレ配列の相互作用は弱く (Kd~μM) 、既存の方法では複合体の詳細な構造情報を得ることが難しい。そこで、Tom20とプレ配列の間に形成させた分子間SS結合、あるいはプレ配列内に導入した分子内SS結合を利用して、複合体を安定化する試みを行ってきた。その結果、新たに 1)これまでと異なる結晶系から得られた新規の分子内SS結合複合体、2)Tom20とプレ配列間のリンカーをこれまでより長くした分子間SS複合体について、X線結晶構造解析に成功し、新たに3つの新規複合体構造を得た。そこで本年度はTom20によるプレ配列認識のさらに詳細な情報を得るために膜貫通領域をを含めたTom20全長の蛋白質発現を試みた。大腸菌による蛋白質の発現では、BL21 DE3を用いると十分な蛋白質が得られなかったが、アジレント社のArctic Expressを用いることで発現に成功した。この蛋白質発現に成功したことは今後の「Tom20によるプレ配列の動的認識モデル」の詳細なメカニズムの解析について利用できる研究成果である。
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