研究概要 |
本研究において、固体NMRを用いたヌクレオソーム(分子量200 kDa)中のヒストン(分子量110kDa)の動的な構造解析をおこなった。これまでの構造決定、構造解析で用いられてきたX線結晶構造解析では解析できない運動性の大きい領域や溶液NMRでは測定できない大きな分子量をもつヌクレオソームについて固体NMR法を適用した。今回、結晶構造解析で決定できなかったヌクレオソームの運動性の高い領域(ヒストンテール)の構造の解析を行った。そのヒストンテールこそが、DNAの転写にかかわる非常に重要な領域で、その構造を解析し機能発現機構の解明することを目指した。 昨年度に完成した^<13>C,^<15>N標識したヌクレオソームの精製、再構成法をもとに、本年度は精製規模をスケールアップし、固体NMRに必要な約16mgのH2Aのみ^<13>C,^<15>N標識したヌクレオソームを作成することに成功した。そして、固体NMR用試料を作成するために、凍結乾燥法とMg^<2+>イオンによる凝集法の2つを検討した。凍結乾燥法では大量の凍結保護剤を用いることでヌクレオソームの分解が避けられた。一方、イオン凝集法ではヌクレオソームのみでできた沈殿を得られた。この沈殿は凍結融解にも強く、クロマチン構造のモデルとして考えられ、生物学的にも重要である。そこでイオン凝集法を採用した。 イオン凝集法よって作ったサンプルを固体NMRにより構造解析を行った。INEPTなどの溶液NMRで使われる手法とマジック角試料回転法を組み合わせることで、運動性の高い領域の2次元H-C相関測定を行った。このスペクトルを解析すると、ヒストンテールが観測されていることが分かった。つまり、クロマチン形成下でもヒストンテールは運動していて、さまざまな機能発現を可能にしていると考えられた。 こうして世界で初めてヌクレオソーム中のヒストンの固体NMRによる解析が成功した。
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