研究概要 |
TTC3は、ヒト21番染色体長腕上のダウン症責任遺伝子領域に存在する機能未知遺伝子であった。これまでの研究で原癌遺伝子産物Akt をbaitとしたYeast Two Hybrid法によりTTC3が新規Akt結合因子として同定されさらに活性化Aktを特異的にポリユビキチン化するE3プロテインユビキチンリガーゼである事が、生化学的なアプローチによって明らかとなった。また、そのユビキチン化を介して、活性化Aktが、プロテアソーム複合体によって分解(不活性化)されることから、活性化Aktのdownregulationが、脱リン酸化によるものだけでなく、TTC3を介したユビキチン-プロテアソーム分解系によって制御される事が初めて証明された。(Suizu et al.Developmenta Cell 2009)本研究では、Aktの安定制御に関わる共同研究により東京大学グループとの共同研究により胎盤形成前,初期の妊娠維持に非常に重要な因子Death effector domain-containing protein(DEDD)がAktを安定化するタンパクである事を明らかにした。(Kurabe, N., Suizu, F., et al. J Biol Chem 2009)。またAkt活性化制御に関連する成果として、インフルエンザ由来NS1 タンパク質がAktを活性化し、宿主におけるウィルスの複製を有利にする働きのある因子であることを明らかにした。Matsuda, M., Suizu, F. et al.Biochem Biophys ResCommun (2010) さらにINSERM(フランス国立医学研究機構)グループとの共同研究により自閉症関連因子産物が、TTC3 と樹状突起において結合・協調し、Akt の活性修飾を担う因子である事が明らかになった。(submitted)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は機能性変異型TTC3や最適化修飾因子を発現させ、Aktの活性化を介した細胞増殖や細胞死に対する生物学的効果の検討を試みた。 1.細胞内におけるAkt活性の検討:ヒト神経細胞、またAkt活性の亢進がみられる腫瘍細胞株を用いて細胞内でのAkt活性への影響を比較検討する。 2.細胞増殖能への影響の検証:Akt活性の亢進した腫瘍細胞株における、TTC3または最適化修飾因子の細胞増殖への影響を解析する。 3.細胞死誘導に対する効果の検証:TTC3は、脳などの神経系組織に発現分布が集中しているため、神経細胞における細胞死(アポトーシス)制御の効果を検証する。 4. ダウン症由来iPS細胞の作成と機能解析:21トリソミーによって高率に発症する若年性アルツハイマー病に対するTTC3の生物機能の役割について詳細に検証するため、ダウン症皮膚細胞へのiPS誘導因子(OCT4, SOX2, KLF4, c-Myc)の導入によりダウン症由来iPS細胞を作成する。以上の研究計画のうち、上位項目の検証まで終了し、TTC3がAktの活性を抑制することによって、細胞増殖を制御する因子であることが明らかとなった。
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