Wntによって活性化される複数のシグナル伝達経路は、主として細胞の分化・増殖を制御するβ-カテニン経路と細胞運動・極性を制御するβ-カテニン非依存性経路に大別される。両経路で機能する細胞内因子Dvlにはリン酸化される可能性の高いセリン、スレオニン、チロシンが多く存在し、実際に幾つかの細胞株はWntで刺激をすると内在性のDvlのリン酸化が観察される。しかし、現在までに、Dvlのリン酸化制御や関与するリン酸化酵素に対する知見は乏しく、また両経路においてWnt刺激依存性にリン酸化されたDvlがどのように機能し、下流のシグナル伝達を制御しているのかは不明である。当研究室の知見から、HeLaS3細胞は内在性にWnt5aを多く発現しており、内在性Dvlが恒常的にリン酸化されている。siRNAを用いてWnt5aやその受容体であるFz2、Ror1/2をノックダウンすると、そのリン酸化が減弱する。つまり、HeLaS3細胞におけるDvlのリン酸化は、内在性Wnt5aが関与するシグナル経路の活性化に因る。そこで、本年度は、ヒトの710種類のリン酸化酵素を網羅した2130種類(一つのリン酸化酵素につき3種類のsiRNAで構成されている)のsiRNAより構成されるlibraryを用いてHeLaS3細胞におけるDvlのリン酸化に関与するリン酸化酵素のスクリーニングを行った。方法としては、各リン酸化酵素ごとの3種類のsiRNAを同時にHeLaS3細胞に導入し、内在性Dvlのリン酸化を減弱させる(Dvlのbandのシフトダウンを引き起す)一次候補を選別した。さらに、一次候補の3種類のsiRNAを個別にHeLaS3細胞に導入し、少なくとも2種以上が依然としてDvlのリン酸化を減弱させる候補を二次スクリーニングした。その結果、32個のリン酸化酵素が同定された。これらの候補の中には、これまでにDvlのリン酸化に関与すると報告されているCKIδやRor2も含まれているため、スクリーニングは機能していたと考えられる。今後、Wnt5aシグナルに関与する候補をさらに様々な実験系を通して選別し、リン酸化酵素の同定を試みる予定である。
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