銅イオン輸送ATPase(CopA)は、ATPを加水分解し余分な銅イオンを排出するイオンポンプである。同じくイオンポンプであるカルシウムATPaseの詳細な構造解析によって、3つの細胞質ドメインの運動がイオン輸送に重要であることが明かされた。3つのドメインに加えて、CopAではN末端側に他のイオンポンプには存在しない金属結合ドメイン(NMBD)を持つが、その意味は謎である。本研究では、CopAの生理的中間体を現す細胞質ドメインの複数のX線結晶構造を決定し、NMBDを含めたドメイン間の相互作用様式の解明を目指す。 構造決定を目指すターゲットは、1)ATP加水分解過程を模したPNドメイン構造、2)NMBDとAドメインの複合体構造、そして3)銅シャペロンCopZとNMBD複合体構造、の3種類である。蛋白質試料は大腸菌で大量発現させ、各種カラムクロマトグラフィーにより高純度に精製し、幅広い結晶化スクリーニング、そして結晶化条件の最適化を行った。得られた結晶は茨城県つくば市の高エネルギー加速器研究機構のフォトンファクトリー(PF)にてX線回折データを収集し、解析ソフトを用いて構造を決定した。 現在の進行状況に関しては、ターゲット1)については、PNドメインにADPとPiが結合した状態の構造決定に成功した。しかし、2)と3)に関しては遺伝子組み換え操作で連結させるなどの試料調製に工夫を試みたが、残念ながら構造解析に適した結晶を得るには至っていない。今後も試料調製などに改良を加えることで、目標達成を目指したい。
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