細菌のpH制御機構を理解する上で、実際にH^+輸送に関わる蛋白質自体の活性制御機構の理解は極めて重要である。その一方で、詳細が解明されている輸送体は現在のところ数少ない。本研究では、細菌の主要なNa^+/H^+対向輸送体の一つであるNhaB様輸送体について、アルカリ条件下のみで活性を示すVibrio alginolyticusのNhaB様輸送体(VaNhaB)、および中性以下のpHでも一定以上の活性を示す大腸菌由来のNhaB輸送体を題材に用い、pHセンサー領域の特定、及びそれと相互作用する領域の特定を通じ、その活性制御機構の詳細な理解を目的としている。またNhaB様輸送体は、他のpH依存的活性制御機構の研究が盛んな輸送体との相同性を殆ど持たないことから、本研究は新しい形のpHセンサーの分子機構を提示しうるものであると考えている。平成22年度は、VaNhaBの一部をNhaBの該当する相同性の高い領域と置換したキメラ変異体を複数作製し、種々のpHにおいてそれらの活性を測定することで、VaNhaBのpH感受性に重要な役割を果たす領域の探索を進めた。その結果、VaNhaBの427番目のロイシンから434番目のアスパラギン酸の間の配列(426L-435D)を大腸菌の該当箇所と置換するとpH感受性が失われることを明らかとした。また、VaNhaBのこの領域のみをNhaBの該当する配列と置換してもpH応答性に変化が無いこと、さらにこの領域に加えて373番目のグルタミン酸から425番目のグルタミン酸の間の配列(427E-434E)もpHの感知に重要な役割を果たすことを明らかとし、これらの領域が協調してVaNhaBのpHセンサーとして機能している可能性が高いことを初めて示した。
|