細菌のpH制御機構を理解する上で、H+輸送に直接関わる蛋白質自体の活性制御機構の理解は極めて重要であるが、詳細が解明されている輸送体は数少ない。本研究では、細菌の主要なNa+/H+対向輸送体の一つであるNhaB様輸送体について、アルカリ条件下のみで活性を示すVibrio alginolyticusのNhaB様輸送体(VaNhaB)、および中性以下でも一定の活性を示す大腸菌由来のEcNhaB輸送体を題材に用い、pHセンサー領域の特定、及びそれと相互作用する領域の特定を通じ、その活性制御機構の詳細な理解を目的としている。昨年度までに、VaNhaBとEcNhaBのキメラ変異体の解析により、VaNhaBのTM8を含む領域(373E-434D)がVaNhaBのpH感受性に必須であること、およびこの領域以外にもpH感受性に関与する領域が複数存在する事を示した。これらに加えて本年度は、上述のVaNhaBの373E-434D領域をpH非感受性のNhaB様輸送体に導入した変異体の詳細な解析等により、この領域がNhaB様輸送体のpHセンサーとして確かに機能することを初めて見出した。なおこれらの成果については、上記の全キメラ変異体の大腸菌における発現量の解析等と併せてBiochemistry誌に報告した。また、cysteine-scanningによる上記373E-434D領域の詳細構造の解析に着手し、現在も解析条件の検討等を続けている。一方で、中性・アルカリ性条件下におけるkinetic propertyの解析を行い、VaNhaBで観測されたpHの低下に伴う急激な活性の減少がNa+親和性の低下により引き起こされることを初めて明らかとした。なおこの成果については、別に進めていた他の複数細菌由来のpH感受性・非感受性NhaB様輸送体の系統樹解析および機能解析の結果と併せ、現在論文を投稿中である。
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