RNAは転写後にスプライシングやRNA修飾などを経て成熟し、その本来の機能を発揮する。転移RNA(tRNA)はコドンとアミノ酸を対応させる機能をになうタンパク質合成系における中心的な分子であるが、このtRNAが機能するのに必要な硫黄化修飾がどう生合成されているかは未解明である。試験管内での再構成系により生合成のメカニズムを詳細に解析し、また細胞での解析から転写後修飾の機能を明らかにすることを目的とし研究を進めた。 本年度は高度好熱菌(Thermus thermophilus)をモデルとして4つの組換えタンパク質(SufS、TtuA、TtuB、TtuC)を用いて、システインの硫黄原子がtRNAへ効率的に転移される反応系の構築を試みた。補酵素が結合した生合成因子の調製法を確立し、反応条件(反応組成・温度など)の検討により90%以上という高効率でtRNAへの硫黄転移が起こる系を構築することに成功した。これにより今後詳細な生化学的解析をおこなう基盤を固めることができた。 また好熱菌の細胞内で、生合成因子同士が共有結合することを見出した。生合成因子の構造および反応機構の点から真核生物のユビキチン化系に類似していることを明らかにした。これは真正細菌では初めての発見である。真核生物の場合、この共有結合の代表的な機能はタンパク質分解であるが、好熱菌においては生合成因子の分解には関与していないことが示唆された。今後は硫黄修飾の生合成における役割を含め好熱菌における生物学的な意義について明らかにすることを目指す。 本研究の成果は招待講演等で発表するとともに、日本生化学会誌「生化学」に総説として発表した。
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