マラリア原虫は赤血球中で増殖する際にヘモグロビンを分解し栄養としている。その際に生じるヘモグロビン内部のヘムはマラリア原虫に対して毒性があることが知られている。マラリア原虫はヘムを結晶化することにより、ヘムの反応性を低下させ無毒化していることが推測されているが、ヘムを結晶化する機構については様々な機構が提案されており、現在でも活発に研究が行われている。本研究では近年新たにマラリア原虫から発見された酵素、Heme Detoxification Protein(HDP)によるヘムの結晶化の反応機構解明を目標として研究を推進してきた。 昨年度までの研究により、大腸菌から活性を持つHDPを調整することにに成功していたが、蛋白質の安定性が低いため大量調製には問題があった。本年度は再構成時にアルギニンを添加することを検討したところ、著しく安定性の向上が確認され、各種分光法に利用するのに十分な試料を得ることに成功した。この蛋白質試料を用いて、共鳴ラマン分光法および電子スピン共鳴法により蛋白質のヘム結合アミノ酸残基同定を試みたところ、ヒスチジン残基がヘムに配位した場合に特徴的なスペクトルが得られた。この結果は、マラリア原虫内でヘムを無毒化する際の活性部位同定に非常に重要な情報であり、今後の抗マラリア薬の開発において有用な知見である。また、X線結晶構造解析に向けた蛋白質結晶化にも取り組み、小さいながらも結晶を得ることにも成功した。現在は部位特異的アミノ酸置換によるヘム結合アミノ酸残基の特定と、蛋白質結晶化条件の最適化に取り組んでいる。
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