研究概要 |
イオンポンプは,生体膜を隔ててイオンを輸送する膜タンパク質の一種であり,ATPを加水分解して得られる化学エネルギーを用い,濃度勾配に逆らってイオンを能動輸送する.近年,形質膜中でカチオン輸送を行うP型ATPaseの中の一つである筋小胞体カルシウムポンプ(SERCA)の解析が進み,ダイナミックな構造変化を伴うイオン輸送の実体が明らかにされつつある.その一方で,SERCA以外のP型ATPase分子に関しては研究が遅れている.本研究課題では,「液中高速原子間力顕微鏡によるリアルタイム・ナノ構造解析技術」と「電気生理学的実験手法」とを組み合わせ,生体膜中にあるSERCAおよび細胞膜ナトリウムポンプの反応を,構造的・機能的側面から1分子レベルで解析し,ATPの化学エネルギーを利用したイオン輸送機構の分子レベルでの理解を目指した. (1)Na+-Pumpを含んだ脂質二分子膜試料に対し,高速AFMによるリアルタイム構造解析を行った結果,膜表面から大きくせり出したNa+-Pumpのα-サブユニット,および小さなβ-サブユニットを溶液中に於いて観察することに成功した.両者は,形状の違いから明確に区別することが可能であった. (2)Na+-Pumpのβ-サブユニットに関しては,膜内で拡散運動する様子が観察された.一方で,α-サブユニットに関しては,膜内拡散運動は小さかった.これは,細胞内ドメインが試料基板表面にコンタクトしており,運動が阻害されているためと考えられる. (3)Na+-Pumpのα-サブユニットに関しては,ATP存在下かつ生理的条件下において,ダイナミックな構造変化を繰り返している様子が観察された.これは,SERCAで観察された構造変化と類似した動きであった.
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