研究概要 |
細胞呼吸系の末端酸化酵素であるチトクロムc酸化酵素は、酸素分子を還元し水を形成するとともに,プロトン(H^+)をポンプする。ウシと細菌酵素のX線結晶構造解析により両者の間で相同な3つの水素結合ネットワーク(D-、K-、H-path)が明らかにされた。細菌酵素では、D-pathが水形成用H^+とポンプ用H^+の両方を輸送すると提案され、機能を担う部分の構造が酷似したウシ酵素でも同様の経路と機構で輸送されると推測されている。しかし、申請者らは、ウシ酵素のX線構造解析と変異体解析により,H-pathがH^+ポンプ経路であると提案し、対立している。本研究では、ウシ酵素D-pathの機能を検討するために、HeLa細胞を利用したウシ・ヒト雑種酵素の発現系を用いて変異体Asn98Asp、Asn163Asp、Glu242Gln、Asp91Asnを作成し、その機能への影響を検討した。Asn98Asp、Asn163Aspに対応した変異は、細菌酵素においてH^+ポンプ活性のみが消失し、D-pathway H^+ポンプ説を支持する。一方、Glu242Gln、Asp91Asnに対応した変異は、酵素活性が消失し、D-pathwayが水形成用H^+を輸送することを支持する。ウシ酵素での前者の変異は、活性に全く影響を与えなかった。これは、細菌酵素の結果と異なる。そこで、宿主内での新たな変異による機能復帰の可能性を検討するため、13サブユニット遺伝子の塩基配列の決定を行った。その結果より、Sublに導入した変異を除き、新たな変異は認められなかった。後者のGlu242Gln、Asp91Asnの変異は、酵素活性を消失させた。これは、ウシ酵素D-pathが水形成用H^+を輸送することを示唆する。以上の結果より、ウシ酵素D-pathは水形成用H^+を輸送するが,ポンプ用H^+は輸送しないことが示唆された。
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