プリオン病は、正常型プリオン蛋白質PrP^Cが、病原性を有する異常型プリオン蛋白質PrP^<Scrapie>に構造転換することに起因すると考えられているが、代表者は従来の高圧NMR法を中心とした研究で示されたプリオン蛋白質の"励起構造"が、プリオン感染・伝播機構および動物種間障壁において重要な鍵を握るものと考える。そこで蛋白質"励起構造"の定量解析に適した横緩和分散法と高圧NMR法を組み合わせることで、正常型及び異常型プリオン蛋白質における両者の励起構造における違いを明らかにする事を目的としている。 本年度は多次元NMR測定のための試料調製を行った。始めに、我々のグループで確立された手順に従い、正常型ハムスタープリオン蛋白質(haPrP^c(23-231))の発見・精製を行った。 (1)HaPrP^C(23-231)pET41/Rosetta cellのグリセロールストックから大量発現を行ったところ、見積もられた蛋白質量は約150mg/L cultureであった。菌体破砕後、Niアフィニティークロマトグラフィーを行い、SDS-PAGEの結果から、haPrP^C由来と考えられる23kDa付近のバンドと、45kDa付近に夾雑蛋白質のバンドを確認した。その後、溶出段階におけるイミダゾール濃度の検討を行ったが、夾雑蛋白質の除去ができなかった。そこで、陽イオン交換とゲル濾過クロマトグラフィーの併用を試みた。その結果、夾雑蛋白質と見られていた45kDa付近の単一バンドがダイマー状態のhaPrP^C由来である事が判明し、ダイマー状態を含むものの純度の高いhaPrP^Cを得るプロトコルができた。 (2)(1)で確立されたプロトコルに従い、M9培地を用いて^<15>N安定同位体標識したhaPrP^Cの最適な大量発現条件の検討を行い、現在も進行中である。 (3)スクリュー型ハンドポンプ(700MPa仕様)を搭載したオンライン型高圧NMRシステムを構築し、耐圧NMRセルを使用した横緩和分散測定の最適なパラメータ設定を標準蛋白質試料で行った。
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