研究概要 |
一酸化窒素還元酵素(cNORとqNOR)の膜環境下における全原子古典分子動力学(MD)計算を行った.300ナノ秒の長時間MDを行い,タンパク質の安定性だけではなく,タンパク質の膜貫通領域にある活性中心へのプロトン輸送を担う水チャネルの形成・安定性も検討した.そして,静的な結晶構造から示唆されている水チャネルの描像を,ダイナミクスの詳細に基づいて再検討した.その結果,活性中心ヘプロトンを輸送しうる幾つかの水チャネルの特定に成功し,チャネル内部の水分子が形成する水素結合ネットワークの動的な振る舞いを明らかにした.今回特定した水チャネルは,結晶構造解析から示唆されていたcNORのチャネル1とqNORのK-チャネルと良く一致しており,それらがプロトン輸送経路となっていることを示唆する.一方,他の実験から示唆されていたチャネル2がプトロン輸送には相応しくないこともわかった.これらの水チャネルとは別に,結晶構造からは予測することの出来なかった新たなプロトン輸送経路(cNORのチャネル3とqNoRの周辺質からのチャネル)も提案した.また,cNoRとqNoRはお互いに良く似た構造をとっているにも関わらず,プロトンを取り込む機構が著しく異なることがわかった.この結果は,チトクロムc酸化酵素を含む呼吸酵素のプロトン輸送を明らかにし,その進化過程を知る糸口となる,以上の結果に基づき,今後は半古典的手法を用いて実際のプロトン輸送過程のシミュレーションを行う.
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