研究概要 |
昨年度の実験の結果,大腸菌由来の試験管内翻訳系で不活性化または凝集化したタンパク質の割合が多く,結果的に変異体ライブラリのサイズが期待されたものより大幅に小さくなることが判明した.これは計画当初からある程度予測されていたことではあるが,その割合は予想を上回るものであった.今後は(1)この不活性化の問題と,(2)機能を持ったわずかな数の個体を高効率でスクリーニングするための実験系の構築に注力する必要がある.このうち(2)の対策として昨年度の後半に,スクリーニング容器の表面をテフロンコーティングしたあとにPEO-PPO-PEOブロック共重合体をコートすることで,スクリーニング容器表面に対するタンパク質やRNAの非特異的な吸着を大幅に低減することに成功した.引き続き微小な空間へのタンパク質フィラメントアレイの実装と,反応容器表面の不活性化のための表面処理の研究を進める.並行して,タンパク質-分子レベルでの機能の創成だけでなく,天然から得られる既存のモータータンパク質を複数組み合わせて,新たな機能を持つモーター複合体を創成するという方針で実験を実施した.DNAを複合体形成のための足場として利用し,モータータンパク質同士を自己組織化させたあと,この複合体の挙動を全反射蛍光顕微鏡で観察したところ,一分子ではほぼ不活性な分子が,二分子をお互いにリンクさせると協同的に機能を発現することを見出した.この成果については学会発表の後,国際誌に投稿し,現在改訂作業中である.
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今後の研究の推進方策 |
「9.研究実績の概要」で述べた問題に対して,(1)は分子シャペロン系の添加や他の宿主由来の試験管内翻訳系の導入で解決を図り,(2)は極性を揃えた高密度のタンパク質フィラメントアレイの開発と,スクリーニングするための反応容器への非特異的な吸着の低減のための研究を進める.また,タンパク質-分子レベルでの機能の創成だけでなく,複数のモータータンパク質を組み合わせて新たな機能を持つモーターを創成する方向の実験も昨年度に引き続き並行して進めていく.
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