研究課題/領域番号 |
22770164
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研究機関 | 独立行政法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
古田 健也 独立行政法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所バイオICT研究室, 研究員 (40571831)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | キネシン / 低分子GTPアーゼ / 分子モーター / 進化分子工学 |
研究概要 |
本年度は分子進化サイクルを実施したにもかかわらず,機能を獲得した分子を得ることが出来なかった.その原因として,これまでに使用していた試験管内翻訳系では,発現したタンパク質ライブラリのうち不活性化したものの割合が多いことが,分子のバリエーションを大幅に減らしている可能性が示唆された.そこで,最近開発された試験管内翻訳系を採用し, 分子シャペロンを添加して発現を行ったところ,不活性な分子の割合を大幅に下げることに成功した.また,試験管内翻訳系での発現量,産生されたタンパク質の安定性は,発現温度や時間だけでなく,N末端側に付加する精製・検出用タグの種類に大きく依存することが分かった.そこで,発現条件の最適化を行い,これまでと比較して大幅にキネシン分子の発現量を増やすことに成功した.これにより,キネシンを初期配列とした新たなストラテジーの進化実験が可能になったため,現在,キネシンの狙った部位へ同時にランダム変異を入れるための新しい方法を確立しているところである. また,分子進化実験と並行して,DNAナノ構造などの足場を利用して,複数のタンパク質の複合体を構成する事により新たな機能を創出する研究も進めた.その結果,分子モーターを複数結合させた複合体の機能には,想定していたよりも大きな変化が見られ,タンパク質の協同性に関して新たな知見が得られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画当初から予想されていたことであるが,本研究は,ペプチド等と比較して大きなタンパク質の発現を伴うため,得られる分子のバリエーションが少なくなることが分かった.これを克服するための追加実験のために計画は1年ほど遅れていると考えられる.ただし,翌年に追加した新しい計画案に従って,複数のタンパク質の複合体を構成する実験を行ったところ,タンパク質の協同的な機能の創製に関して想定されたよりも大きな前進が得られたため,全体としては研究計画は順調に進展していると評価出来る.
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画の通り,低分子GTPアーゼを初期配列として,分子モーター「キネシン」に似たモーターを創製することが最大の目標だが,今後は,新しい試験管内翻訳系とキネシンを初期配列とした進化実験を追加し,新たな機能を獲得した分子を得ることを目標とする.そのために,キネシンの狙った部位へ同時にランダム変異を入れるための新しい方法を確立し,(1)キネシンを初期配列として,この運動方向を逆転させたものを作る(ネック部位に変異を導入),(2)キネシンの運動速度を速くしたものを作る(ATPase部位に変異),(3)キネシンが本来結合しないアクチンフィラメントの上を動くキネシンを作る(微小管結合部位に変異),(4)高温条件などのタンパク質変性を起こすような厳しい環境でも安定なキネシンを作る(分子全体に変異),の4つの方針で分子進化実験を行う.
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