昨年度から,試験管内翻訳でタンパク質の発現量がなかなか上がらないなど,様々な困難があったため,研究計画を2つに分け,1つは当初の計画通り分子を進化させるサイクルを実施し,もう一つは,DNAナノ構造を足場として利用して,複数のタンパク質の複合体を構成する事により新たな機能を創り出す研究も進めた.前者の研究では,低分子GTPase,キネシンんを初期配列として,細胞骨格に結合・解離出来る分子をスクリーニングした結果,分子進化によって興味深い性質の分子を創出することが出来た(特許出願を想定し,一定期間公表を見合わせる).後者の研究では,DNAをテンプレートとして用い,複数のタンパク質の複合体を構成する事により新たな機能を創出する研究も進めた.DNAテンプレートは1本鎖,2本鎖DNAの他,DNAオリガミと呼ばれる3次元構造を使用し,所望の分子モーターを所望の位置に,活性を保ったまま結合することに成功した.DNAテンプレート上に,キネシン-1,キネシン-14と呼ばれる分子モーターを決まった数だけ結合させ,この複合体の機能を計測した結果,キネシン-1は分子数を多くしてもその運動速度,発生力が大きくならなかったのに対し,キネシン-14の場合は,分子数に応じてこれらのパラメータが変化し,分子同士が協力し合う仕組みが備わっていることが分かった.また,細胞質ダイニンの場合は,1分子では自己阻害状態にあり運動出来ない状態になっていること,および,複数分子では活性化され,一方向に運動する機能を持っていることを発見した.このように,様々な分子モーターを複数結合させた複合体の機能を計測した結果,分子モーターの種類によって,その協同性が大きく異なるなどの新たな知見が得られた.
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