研究概要 |
ヒトの代表的なDNA損傷応答経路としてATR-Chk1経路が存在する。9-1-1(Rad9-Hus1-Rad1)複合体はこの経路の活性化に関わるリング状の三量体であり、Rad9のC末端にはリングから飛び出し様々な因子と相互作用するtai1領域が存在する。このC末端にはTopBP1が結合することが分かっていたが、我々は昨年度、この領域に存在する341番目および387番目のセリンをカゼインキナーゼ2(CK2)がリン酸化し、このリン酸化がRad9とTopBP1の結合を可能にし、ヒト細胞内における損傷応答に必要である事を報告した(Takeishi et al,2010)。本年度はさらにこの9-1-1/TopBP1相互作用の細胞内における役割を調べるために、ヒト培養細胞を用いた局所的紫外線照射後のこれらのタンパク質の細胞内局在の解析を行った。ヒト培養細胞内でRad9およびTopBP1は、それぞれ紫外線照射部位へ局在した。興味深い事にTopBP1と結合しない変異型Rad9を発現する細胞では、Rad9自体の紫外線照射部位への局在は野生型Rad9を発現する株と変わらなかったが、TopBP1の紫外線照射部位への局在が減少した。しかしながら、この損傷部位への局在の減少は紫外線照射後の比較的早い時点でのみ(照射後30分程度)顕著に認められた。一方、同じ条件でATR-Chk1活性化の指標であるChk1の345番目のセリンのリン酸化状態を調べたところ、変異型Rad9発現株でTopBP1の紫外線照射部位への局在が回復する時間帯でもChk1のリン酸化状態は低いままであった。これらの事から、9-1-1とTopBP1のCK2によるリン酸化部位を介した結合は、TopBP1の損傷部位への局在を促進するが、その局在以上にこれらのタンパク質が損傷部位へ局在した後のシグナル伝達に重要な役割を果たす事が明らかとなった。
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