私達の細胞が持つ染色体DNAは紫外線や放射線、酸化ストレスによる損傷の危険に曝されている。その損傷は(1)DNAチェックポイント機構により感知したのちに(2)DNA修復機構により直される。すなわちDNA損傷の的確な修復には速やかに検出され、正確に修復される必要があり、検出・修復の二つの機構が連携する事が重要であると考えられた。本研究ではこれまでのDNA損傷修復研究の中でも未解明であった、この連携機構の分子基盤を明らかにする事を目的とした。申請者はなかでもチェックポイント機構がDNA損傷を検出した後速やかに解離する事でDNA損傷の修復機構が損傷部位へとアクセスしやすくなっているとの仮説を建てた。初年度はリン酸化修飾がチェックポイントタンパク質Rad9の損傷部位からの解離を促すとのモデルを建て、検証し、論文として報告した。リン酸化は段階的に起こっており、一種のフィードバック制御と考えられる。本年度はRad9のフィードバック制御がDNA損傷ストレスのあとだけではなく、通常の生育時にも重要な役割を持つのではと考え、更なる解析を進めた。クロマチン沈降法を用いる事で、フィードバック制御が起こらない変異Rad9タンパク質は染色体末端領域に強く結合したままである事を示す事が出来た。変異Rad9タンパク質を発現する細胞は生育が遅く染色体分配に異常を示したため、フィードバック制御によりDNA上の様々な活動が協調を受けていると予想された。さらに申請者はフィードバック制御の有無をヒト培養細胞へと発展させる事が重要であると考えた。ヒトRad9タンパク質にも同様のリン酸化部位があり、変異遺伝子を発現する細胞は顕著な生育遅延の表現型を示す事が出来た。これら一連の結果により、申請者が提唱した連携機構がDNA損傷応答時だけでなく常に働く必要のあるリン酸化フィードバック制御である事、また、酵母からヒトまで共通の普遍的制御である事を示唆する結果を得る事が出来、DNA損傷応答研究の重要な課題の一つの分子説明に近づけたと考えている。
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