効率的な細胞運動やエンドサイトーシスには、細胞膜近傍での枝分かれしたアクチンのメッシュワーク構造の構築とその後方でのダイナミックな脱会合が重要である。その動態の鍵を握るのは、アクチン重合因子Arp2/3複合体(以下、Arp2/9)であり、その活性化機構は良く解明されているが、不活性化とアクチン繊維からの解離の制御機序については不明な点が多い。本研究課題では、グリア細胞形質転換因子(GMF)様蛋白質によるArp2/3の活性抑制がアクチン構造体の脱会合に働く可能性について、分裂酵母および細胞性粘菌を実験材料に用いて検討を進めた。 まず前年度に行った分裂酵母Gmf1のアラニンスキャニング変異解析の結果、分子表面にある特定の電荷をもった残基が細胞内でのGmf1によるArp2/3への作用に必須であることを明らかにし、この変異型タンパク質のArp2/3に対する生化学活性を検討することを試みた。しかし、震災に伴う研究試料に被害が生じたために実験が停滞し、明瞭な実験結果を得るには至っていない。一方、分裂酵母gmf1遺伝子破壊株について、Arp2/3およびアクチンのアクチンパッチにおける細胞内ダイナミクスについて、FRAP法を用いて解析を行った。その結果、野生株と比較してこれらの蛋白質の細胞内動態については有意義な差が認められなかった。そのため、Gmf1の機能を代替えするしくみが細胞内には存在していると推定した。 一方、細胞移動におけるGMFの機能ついては、細胞性粘菌の実験系を用いて研究を進めたところ、gmfA遺伝子を破壊した細胞性粘菌株では野生型細胞と較べて運動様式に異常が認められた。より詳細に解析しようと計画していたところ、震災による停電で細胞株が壊滅したため、実験は停滞してしまった。再び細胞株を作製し直し、研究を進めている。
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