細胞質内ストレス顆粒はタンパク質の翻訳を一時的に停止し、細胞損傷を防ぐための構造体であると考えられてきた。しかし申請者のこれまでの研究から、ストレス顆粒は複合ストレス条件下で、他のストレス応答機構と相互作用し、細胞の生存に寄与する新しい機能を持つことが明らかになった。 そこで本研究では、生体内の複合ストレス環境のモデルとして、小胞体ストレスと酸化ストレスが誘導される神経変性疾患に着目し、神経細胞における複合ストレス条件下でのストレス穎粒形成制御と、細胞生存への寄与の解明を目指した。 当該年度は、はじめに培養細胞を用いた実験により酸化ストレスが小胞体ストレスによるストレス穎粒形成を抑制することを見出し、その抑制分子メカニズムの詳細な解析を行った。先行研究から、翻訳開始因子であるeIF2αがリン酸化されることがストレス穎粒形成のトリガーとなることが知られている。一方、酸化ストレスはeIF2αのリン酸化を阻害することなくストレス穎粒形成を抑制することが明らかになった。これまでにストレス顆粒形成を抑制する刺激は報告がないため、本研究で得られた知見の学術的重要性は高い。 次に、実際に神経変性疾患において、神経細胞内に生じる酸化ストレスが小胞体ストレスによるストレス穎粒形成を抑制し、その結果細胞死が促進されるかを検証した。はじめに、疾患モデル細胞として伸長ポリグルタミン鎖を発現誘導できる安定細胞株を樹立した。次に、伸長ボリグルタミン鎖の発現、細胞内蓄積に依存して、細胞内に小胞体ストレス及び酸化ストレスが誘導されることを確認した。このモデル細胞を用いて、酸化ストレスと小胞体ストレスが同時に誘導されている際には、ストレス顆粒の形成が抑制されていることを確認した。
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