研究概要 |
ポリグリシン化はタンパク質の特定のグルタミン酸残基に一つあるいは複数のグリシンを直鎖状に付加するユニークな翻訳後修飾である。繊毛、鞭毛の微小管は高度にグリシン化されているが、その詳細な役割は分かっていない。これまでポリグリシン化の責任酵素は分かっていなかったが、最近Tubulin tyrosine ligase like protein 3, 8, 10がグリシン化酵素であることが同定された。ポリグリシン化が微小管の多様性創出の分子基盤であることを示すことが本研究の目的である。 22年度の研究においてグリシン化酵素の一つであるTTLL8欠損マウスの作製に成功し、繊毛における微小管のポリグリシン化を低下させることに成功した。TTLL8欠損マウスは正常に発生し、正常に繁殖可能であった。TTLL8欠損マウスにおけるタンパク質のポリグリシン化を調べたところ、精巣において様々なタンパク質のポリグリシン化が大きく減少していた。またTTLL8欠損マウスのオスから単離した精子においてαチュブリンのポリグリシン化が減少しているが、βチュブリンのポリグリシン化は変化していなかったことから、TTLL8はαチュブリン及びチュブリン以外のグリシン化を生体内で制御していることが明らかとなった。さらにTTLL8欠損マウスの精巣、精子でポリグルタミン酸化が上昇していたことから、ポリグリシン化はポリグルタミン酸化と拮抗する反応であることも示唆された。23年度の研究では、精子の構造を光学顕微鏡、軸糸の構造を電子顕微鏡で観察を行なった。精子の構造と軸糸の微細構造は野生型マウスと大きな違いは観察されなかった。ここまでの結果を第63回日本細胞生物学会において報告した。また、精巣、精子、気管上皮、繊毛を持つ組織でのTTLL8の発現と局在を調べるためにウェスタンブロット、免疫染色に使用可能なTTLL8抗体を作成に成功した。
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