平成22年度は、動原体ストレッチング(動原体と紡錘体微小管とが結合しているとき動原体が伸長や収縮を繰り返す現象)がどのようにして発生するのかを検討した。2極の紡錘体形成を阻害して単極にしても動原体ストレッチングは発生するが、このとき動原体は張力を受けている可能性が残っている。それは染色体腕部を押す力と動原体を引く力によって動原体に引く力が加えられるというものである。そこで染色体腕部を押す力を除いた条件で動原体ストレッチングを調査した。押す力に関与するモーター分子のKid(クロモキネシン)をノックダウンしても動原体ストレッチングは発生していたことから、動原体が受ける張力はストレッチングの発生に必要ではないという可能性が示された。それならば動原体ストレッチングはどのようにして発生しているのかを明らかにするために、電子顕微鏡でストレッチングしている動原体を観察したところ、動原体の一部が波打つように変形していることが分かった。このことから、微小管の重合による伸長と脱重合による収縮が動原体を変形させ、それによって動原体ストレッチングは発生する可能性が示唆された。実際、薬剤添加により微小管と動原体との結合を安定化させることで、微小管の伸長や収縮がより強く動原体に伝わるようにしたところ、ストレッチングの頻度が増加した。また微小管の動態に関与するモーター分子であるMCAKをノックダウンするとストレッチングの頻度が減少した。 これまで動原体間セントロメアや動原体が受ける張力と関連したチェックポイント機構というものが議論されてきた。一方動原体のストレッチングは紡錘体チェックポイント機構と関連があることが示されているが、動原体ストレッチングは張力を反映していない可能性が高いことから、「動原体ストレッチングが関与する紡錘体チェックポイント機構」は「張力が関与するチェックポイント機構」とは異なる新奇な機構であることが予想される。
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