脊椎動物の初期胚発生過程においては、最初に外胚葉、中胚葉、内胚葉と呼ばれる三種類の細胞集団が形成され、その後、外胚葉からは神経、表皮、神経堤細胞などが発生していく。主要なシグナル伝達経路の一つであるRas/ERK経路は、未分化外胚葉の表皮への分化を抑制し、神経への分化を促進することが知られている。本研究では、アフリカツメガエル胚の未分化外胚葉においてRas/ERK経路により転写抑制をうける機能未知遺伝子を探索し、初期胚外胚葉の運命決定を担う新規分子の同定を目指した。平成23年度は、複数の候補遺伝子のうち、KCTDファミリーに属する遺伝子であるKCTD15に注目した。KCTD15蛋白質は255アミノ酸から成り、カリウムチャネル四量体ドメインをN末端側に持つ。アフリカツメガエル初期発生過程におけるKCTD15の発現を調べたところ、原腸胚期では外胚葉全体で発現が観察された。ところが神経胚初期になると、外胚葉のうち背側に位置する予定神経領域では発現が消え、腹側に位置する予定表皮領域では発現が持続していた。神経胚中期になると、神経堤、プラコード、蓋板といった限られた領域にのみKCTD15の発現が観察された。またFGF受容体の阻害剤存在下で胚を培養すると、KCTD15の発現部位が顕著に拡大したことから、KCTD15の組織特異的な発現には、FGFシグナルによる負の制御が必要であることがわかった。さらにKCTD15のノックダウンにより神経および神経堤特異的な遺伝子の発現が上昇して頭部形成等が阻害されることを見い出した。すなわちKCTD15が外胚葉の神経・神経堤への分化を負に制御することが示唆された。この研究成果をまとめた論文は、2012年3月5日にInternational Journal of Developmental Biologyに受理され、現在印刷中である。
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