両生類の変態は劇的な体の作り換えであり、体内の組織のほぼ全てが幼生型から成体型へ転換する。この時、赤血球も、幼生型から成体型へ転換する。この転換は、幼生型ヘモグロビンを持つ赤血球が成体型ヘモグロビンを持つ赤血球に置き換えられることによって生じる。本研究では、アフリカツメガエルを用い、赤血球転換機構を明らかにするため解析を行った。 末梢血全体を用いて遺伝子発現を解析すると、赤血球系以外の細胞の影響が無視できなくなる可能性がある。そこで、末梢血を100個だけ分取し、これを用いてRT-PCRにより遺伝子発現を解析した。その結果、甲状腺ホルモン合成が始まる前のステージ48で成体型グロビンを持つ赤血球が出現しはじめ、このタイミングとエリスロポエチン受容体発現のタイミングが一致することが明らかになった。このことから、成体型赤血球増殖の引き金を引いているのはエリスロポエチンである可能性が示唆された。また、甲状腺ホルモン受容体は変態の前後を通じて赤血球で発現せず、貧血誘導によって末梢に出現する血球前駆細胞でも発現が検出されなかった。このことから、甲状腺ホルモンは赤血球の転換に直接的な影響を与えていないことが示唆された。 また、Percollの密度勾配によって、変態期であるステージ59の個体の末梢血を異なる分画に分離することができた。PCNA抗体を用いたウエスタンブロットを行ったところ、密度の小さい赤血球集団が増殖細胞の集団であることが分かった。一方、密度の小さい集団も密度の大きい集団も幼生型グロビンと成体型グロビンをほぼ同じ割合で含むことが分かり、成体型赤血球のみが選択的に増殖するわけではないことが示唆された。 これらの結果から、「甲状腺ホルモンによる幼生型細胞の死と、成体型細胞の増殖・分化」という図式では必ずしも両生類の変態をとらえることができないことが示された。
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