Shh遺伝子の肢芽エンハンサーであるMFCS1内にはヒトやマウスで多指症を呈する一塩基置換の突然変異が複数報告されている。前年度には、Hxタイプの点突然変異領域にMsxlが結合することから、Hxがgain of function型の変異であることを明らかにした。他の変異領域がどのようなメカニズムで機能しているのか調べるために、Hx、M100081、M101116、DZの四種類の点突然変異領域に関して、それらを欠失させたMFCS1フラグメントを作成し、トランスジェニックマウスを用いたLacZレポーターアッセイを行った。M100081、M101116、DZの三種類に関しては、一塩基欠失によっても一塩基置換の場合と同様のLacZの肢芽前側での異所性の発現が認められた。このことから、M100081、M101116、DZの突然変異は、Hxとは異なって、本来結合するはずの転写因子の結合が阻害されているloss of function型であることが示唆された。 Shh発現に必要とされる転写因子Hoxd13に関しては、クロマチン免疫沈降法によってMFCS1との結合が既に報告されている。MFCS1には11個のHoxd予想結合配列が認められたが、その内の3か所に関して、変異を入れたコンストラクトをそれぞれ作製し、NIH3T3細胞を用いてルシフェラーゼアッセイを行った。どのHoxd予想結合領域を破壊した場合においてもレポーターの発現レベルが1~2割程度低下したことから、少なくともこの3か所のHoxd結合領域は、Shhの発現に際して同程度の貢献をしているようであった。さらに、MFCS1を分割して、それぞれ3つないしは4つのHoxd予想結合配列を含むフラグメントを用いてLacZレポーターアッセイを行った。マウス肢芽組織において、どのフラグメントを用いた場合でもレポーターを発現させる活性がほとんど認められなかった。これらのことから、正常なShhの発現には、MFCS1内の複数か所に一定数以上のHoxd13が結合することが必要とされる可能性が考えられた。
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