広い標高帯に出現するミヤマハタザオの標高に対する適応進化の素材として、エピジェネティクスがどの程度の役割を持っているのかを検討するために、本研究では次のようなステップを踏んできた。(1)進化的な標高適応は既に起きているのか、(2)標高適応形質は何か、(3)標高適応形質にどのくらい表現型可塑性があるか、(4)母親が経験した環境によって標高適応形質の表現型が変わるか、(5)標高適応の原因遺伝子は何か、(6)母親が経験した環境によって原因遺伝子のメチル化修飾状態が変わるか。 H25年度は次の進展があった。(1)H23年に開始した野外移植実験を継続し、3年にわたる適応成分を取得し、累積適応度においてホームサイトアドバンテージがあり標高に対する適応進化が既に起きていることを検証できた(現在確認の解析中)。(2)開花タイミング、発芽タイミング、被食防衛能力などに標高クラインがあることが分かった。(3)開花タイミングと発芽タイミングの表現型可塑性を定量解析した。(4)短日条件の開花タイミング、植物サイズ、花生産数における、母親環境の効果を解析中である。(5)標高によって著しく対立遺伝子頻度が異なることが分かっているGL1遺伝子に、野外圃場においても自然淘汰が働いている可能性が示唆された。(6)野外移植圃場で植物から葉を採集してエピジェネティクス実験に供しようとしているが、試料量が免疫沈降を伴うプロトコルには不十分である。そこで共同研究者とともにバイサルフェイト処理後の次世代シーケンサー実験系の確立を目指している。ミヤマハタザオ複数系統のリシーケンスを行ってリファレンス配列を取得することが必須であり、その作業がほぼ終了した。また、RADシーケンスを利用した新規なメチル化判別法のプロトコル開発に取り組んだが、こちらは研究期間内に終了させることはできなかった。
|