TIRドメインとは、自然免疫において重要な役割を果たすToll様受容体とそのシグナル分子が保有するドメインであり、TIRドメイン同士の結合を介してシグナル伝達を行う。近年のゲノム解析により、ウニやナメクジウオ等の海産無脊椎動物では、Toll様受容体が多重遺伝子族を形成していることや、脊椎動物にはない多様なTIRドメインを含む遺伝子が存在するが明らかになりつつある。たとえばウニとナメクジウオには、シグナル分子MyD88やSarmとは非常によく似たドメイン構成をもつものの、オルソログではないSarm-likeやMyD88-likeが存在している。後口動物の祖先はどのようなToll様受容体の構成を保有していたのか、TIRドメインを含むシグナル分子はどのようなレパートリーだったのかを明らかにするために、棘皮動物の系統でもっとも基部に位置づけられている有柄ウミユリ類トリノアシの胚・幼生cDNAのNGSデータの解析を行った。これまでにトリノアシのcDNAデータの中に6種類のToll様受容体(3種類のハエタイプ、3種類の脊椎動物タイプ)の存在を確認した。またMyD88-like・Sarm-likeといったウニとナメクジウオに共通した遺伝子だけでなく、ウニにはないがナメクジウオには存在するTIRドメインを含む遺伝子であるCARD+TIR、TPR+TIRがトリノアシに存在することが分かった。後口動物の祖先は多様なTIRドメインを含む遺伝子を用いていたが、その後TLRのシグナル伝達系が洗練されてくるにつれて、それらの遺伝子は失われたのではないかと考えられた。
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