単細胞生物から脊椎動物までほぼすべての生物は、外界からの情報を受容する感覚システムを持ち、そこから得られた情報に基づいて行動する。感覚は生物の生存・繁殖に非常に重要であるため、それぞれの生物が生息環境に合わせた種特異的な感覚システムを保持していると考えられる。本年度は、霊長類の味覚受容体を対象にその多様化と環境適応との相互関係を明らかにするため以下の課題に取り組んだ。 1)ニシチンパンジー約100個体を対象とした苦味受容体(T2R)の多様性解析を論文にまとめた 2)ニホンザル・アカゲザル300個体を対象としたT2Rの多様性解析をおこなった 3)苦味受容体機能解析のための実験系の構築をおこなった 苦味は、七回膜貫通型構造を持つ典型的なGPCRの1種であるT2Rを介した経路で伝わる。ニシチンパンジーのT2Rの多型解析をおこなった結果、ヒトとニシチンパンジー間では遺伝子のレパートリーはほぼ同じであるが、ニシチンパンジーの方が機能的なT2Rを2~3遺伝子多くもつことが明らかとなった。また、ニシチンパンジーT2RにおいてヒトT2Rと同様に塩基多様度、アミノ酸置換の割合が非常に高いことがわかった。さらに、マカク類のT2Rにおいても種内多型が多く見られた。これらの結果から、T2Rの多様性を種内で保つことが、多種多様な苦味物質を限られた数の受容体で認識する機構のひとつであると考えた。また、本年度は甘味受容体・うま味受容体であるT1R1~T1R3についても多様性解析を進めた。ゲノム配列の解析が大きく進んだため、さらに配列の多様性と蛋白質の機能との相関をあきらかにするための実験系を構築に取り組んだ。
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