単細胞生物から脊椎動物までほぼすべての生物は、外界からの情報を受容する感覚システムを持ち、そこから得られた情報に基づいて行動する。感覚は生物の生存・繁殖に非常に重要であるため、それぞれの生物が生息環境に合わせた種特異的な感覚システムを保持していると考えられる。本年度は、霊長類の味覚受容体を対象にその遺伝子配列と蛋白質の機能との相互関係を明らかにするため以下の課題に取り組んだ。 1)苦味受容体機能解析のための実験系の構築をおこなった 2)ニシチンパンジーの苦味受容体機能解析をおこなった 3)味覚機能評価における新たな実験系の構築を試みた 苦味は、七回膜貫通型構造を持つ典型的なGPCRの1種であるT2Rを介した経路で伝わる。昨年度はニシチンパンジーやニホンザルのT2Rの多型解析をおこない、ヒトのT2Rと同様に種内多型が非常に大きいことをあきらかにした。本年度はそれらの多型が実際に受容体としての機能の違いや個体の苦み認識能力の差に影響を与えているか検討し、遺伝子配列と苦味受容能との相関をあきらかにした。 霊長類の味覚機能解析は、ヒトの細胞で受容体を強制発現させ細胞に苦味物質を添加する方法や個体に実際に苦味物質を与えその行動をみる方法がとられている。本研究では、それぞれの生物で味細胞を作製し機能解析にもちいることができないかと考え、幹細胞から味細胞を分化誘導する新たな実験系の構築を試みた。本年度は、ヒトのiPS細胞を用いて味覚受容体を発現する細胞の誘導をおこなった。現在までのところ神経幹細胞への分化誘導に成功し今後さらに分化を誘導することで味覚受容体発現細胞の作製が期待される。
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