哺乳類における食物からの栄養利用は、消化管内に生息する微生物が大きく寄与していることが明らかとなっている。例えば、反芻動物などの大型草食獣はルーメンなどの消化管内に共生している微生物の働きによって、本来は利用することの出来ない植物性繊維質を分解して栄養利用している。しかし、消化管内の微生物叢の解析は、ヒト以外では産業的に重要な家畜動物、実験動物、および展示動物などに限られている。一方で、小型哺乳類には多種多様な食性が存在している。囓歯目のように雑食性から草食性の種まで様々な食性が含まれる分類群や、食虫目のような食性の均一な分類群もある。分類群と食性には、なんらかの進化学的因果関係が存在していることが考えられるが、小型哺乳類における食性の進化について消化管内微生物叢に着目して行われた研究は殆どない。そこで本研究では、小型哺乳類の消化管内微生物叢を16S rRNA遺伝子を用いて分子生態学的に同定し、食性の進化を消化管内微生物叢の多様性の観点から検討することを目的とした。平成22年度は、計画通りに飼育下のトリトンハムスターTscherskia tritonを用いて実験を開始した。トリトンハムスターは、形態学的に前胃や盲腸が発達していることから草食性傾向が強いことが知られており、本研究では前胃内微生物叢の解析を行った。しかしながら、得られた配列の殆どが乳酸菌類(Lactobacillus spp.)であり、実験結果に偏りが生じている可能性も示唆されたことから、来年度は調査種を増やすだけでなく、PCR条件の再検討も必要かもしれない。また当初の実験計画通りに、来年度以降の実験の準備として、雑食性のアカネズミApodemus speciosusや、ハタネズミMicrotus montebelliの野外捕獲を行い、新鮮糞や大腸便などから微生物叢のDNA抽出を行った。
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