哺乳類の消化管内に共生する微生物叢は、食物の栄養利用に大きく寄与していることが明らかとなっている。大型動物を用いた研究成果から、草食動物の消化管内微生物叢は、肉食動物の消化管内微生物叢よりも複雑な生態系を構築していることが明らかとなっている。しかし、小型哺乳類にも多種多様な食性が存在しているが、小型哺乳類における食性の進化について消化管内微生物叢に着目して行われた研究は殆どない。そこで本研究では、小型哺乳類の消化管内微生物叢を16S rRNA遺伝子を用いて分子生態学的に同定し、食性の進化を消化管内微生物叢の多様性の観点から検討することを目的とした。 平成25年度は、これまでの研究成果をまとめ、データ解析を行うとともに、追試験を行った。その結果、食虫性モグラ類のコウベモグラMogera woguraの下部消化管、雑食性齧歯類のアカネズミ Apodemus speciosusの盲腸、草食性齧歯類のハタネズミ Microtus montebelli の前胃、飼育下動物で草食傾向よりの雑食性であるトリトンハムスター Tscherskia tritonの前胃および盲腸内の微生物叢を、それぞれ200クローン以上同定する事に成功した。得られたデータをこれまでに発表された大型哺乳類等の微生物叢と比較したところ、①草食性齧歯類の前胃内微生物叢の多様性は極めて低く、大型草食哺乳類の前胃のように繊維質の分解には寄与していないと考えられること、②小型齧歯類の盲腸内微生物叢の多様性は極めて高く、食物の消化に大きく貢献していると考えられること、③食虫性モグラ類の消化管内微生物叢の多様性は高いものの、哺乳類において報告されている消化管内微生物叢とは目レベルにおいて構成比が異なること、が明らかとなった。野生動物は季節や生息地によって同じ種でも餌資源が異なることから、種内変異に注視した研究が必要であろう。
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