研究概要 |
生物が自らの生息環境に適応する仕組みを理解することは、生物の多様な形質の進化や、種の形成を理解する上で重要である。適応に関係する形質の一つとして「感覚系」は、特に注目に値するものの一つである。本研究ではメダカを材料にして、進化遺伝学的解析および行動解析を行うことで、化学物質を認識する感覚である「嗅覚」の適応進化機構の解明につながる知見を得ることを目指して研究を進めている。昨年度は、遺伝的に異なるメダカの2近交系(Hd-rR,HNI)を用いてそれらの嗅覚受容体遺伝子(OR)を特定するとともに、匂い物質に対する嗜好性を評価する行動実験系を始動した。本年度は、メダカOR遺伝子の発現量を測定し系統間で比較するとともに、メダカのアミノ酸水溶液に対する嗜好性を調べる行動解析を行った。遺伝子発現解析について、定量PCR法により28種類の異なるOR遺伝子の発現を測定し、系統間で比較したところ、少なくとも2種類のOR遺伝子で発現量に有意な違いが見られた。またOR遺伝子の発現量には、Hd-rR系統がHNI系統よりやや高い傾向がみられた。次にOR遺伝子の発現量の違いに関わる変異を特定するため、個々のOR遺伝子の転写開始位置をRLM-RACE法を用いて決定し、5'側の転写調節部位を特定することを試みた。この解析は現在進行中であるが、いくつかのOR遺伝子ですでに転写開始点を特定することに成功している。行動解析については、実験用水槽などの装置を作成し、アミノ酸に対する嗜好性をHd-rR系統メダカで調べた。現時点ではメダカの行動をリアルタイムでモニタリングする実験装置の作成は完了し、複数のアミノ酸水溶液を用いた実験を進めているが、まだ明確な結果は得られていない。HNI系統メダカについては、実験用の個体を繁殖・生育させる段階で手間取り、まだ解析を行っていない。現在、実験用個体を飼育・繁殖中である。
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