本課題の目的は、脊椎動物の進化遺伝学において、四足動物との比較対象として重要な生物群である「深分岐魚類」(ポリプテルス等)の機能配列(mRNAなど)を、大量に決定することである。その実施段階は、(1)次世代シーケンサーによるcDNA配列決定、(2)分子進化および応用分子系統学的解析、(3)成果の論文化とデータベース整備、の3ステップに大別できる。初年度の平成22年は主に(1)を遂行した。具体的には、次世代シーケンサーの一種であるRoche 454を活用した cDNA配列決定のための技術的検討と実際の配列決定とを、同時並行で行った。技術的検討の課題は、mRNAから逆転写・合成するcDNAに、ポリA塩基(アデニンが多数重合した塩基配列)が極力含まれないようにすることである。これは、Roche 454の原理であるパイロシーケンス法では、ポリ塩基の配列決定能が著しく低いことによる。しかし現在のところ、Roche 454によるcDNA大量配列決定でのポリA塩基の低減化の検討例は世界的に極めて少なく、ほぼ全ての実施例(出版済みのもの)でオリゴdTプライミングを採用している。本研究はこれを避けるために、(a)ランダムプライミング法、(b)オリゴdTを含まない部分アニーリング・アダプター付加とPCRによるcDNA増幅、の2種の方法を検討し、実際のcDNA配列決定に活用することが出来た。その結果として、前者でRoche 454 titaniumの公称性能(1ラン当たり100万リード;1リード平均400塩基対)を超える成績での配列決定を実現した。現在は、決定したポリプテルスおよびヤツメウナギの大量機能配列に基づいて、応用分子系統学的課題(ゲノム重複および硬骨脊椎動物のルーティングポイントの系統的位置の決定)に取り組んでおり、解析パイプラインを開発している。解析から得られる知見は、進化発生生物学などのあらゆる比較研究や祖先状態推定のための必須の枠組みとなる。
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