本研究では、アジア・アフリカ地域を中心として、化石人類および化石類人猿について、大臼歯歯冠三次元形態を詳細に比較分析し、各種の特徴を明らかにすることを目的としている。それによって同地域の化石人類・類人猿各種間の系統関係について大臼歯形状の観点からどのようなことが言えるのかを吟味するとともに、大臼歯形状の各特長の適応的意義の解釈を深めることを目指すものである。 平成22年度は、中国産化石オランウータン大臼歯のマイクロCTデータの取得と、台湾における化石霊長類資料の状況確認などを実施した。中国・広西チワン族自治区の布兵盆地から出土した化石オランウータンの大臼歯資料を研究する広西民族博物館の王領博士を日本へ招聘し、マイクロCT撮影を実施した。布兵盆地では高度の異なる複数の洞窟遺跡から約100万年以上前から数十万年前という年代幅のあるオランウータン化石が出土しており、この時間的変遷を追うことによって中国におけるオランウータンの進化に関して重要な知見が得られるものと期待される。なお王傾博士のスケジュールの都合により平成22年度中の招聘が可能でなくなったため、招聘は平成23年に実施した。 また平成22年10月には台湾・台中の国立自然科学博物館を訪問し、台南周辺域から出土する霊長類化石の状況を確認した。その結果、類人猿化石は存在しないものの、人骨資料も若千存在し、今後歯の資料を得られる可能性もあるということが分った。 国内の現生霊長類資料についてもさらにマイクロCT撮影を進め、データの分析も進めた。これらの結果をまとめて、平成22年9月に開催された国際霊長類学会において成果発表した。また10月の日本人類学会大会においてはすでに得られていたギガントピテクス大臼歯の分析結果を予報として報告した。
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