研究概要 |
本年度は,昨年度に行った予備実験をもとに実験刺激を改定した.タイ語の構造は子音(42文字)と母音(18文字),声調記号の組み合わせから表現される.子音・母音ともに単体では音や意味を持たず,それらが組み合わさることによって音が表現される.よって,本研究では日本語や屈折語のように,一文字のあたりの情報量を定義することが適切でないため,一音節あたりの情報量を算出した.さらに難易度のレベル分けを行ったうえで,情報処理単位の推定を行った.一注視あたりの情報受容量の推定を行うことで,書式形式による認知的情報処理の相違を考察することが可能となった。 タイ語の組み合わせを基に算出した結果,タイ語の一音節あたりの情報量は5.9bitsであった.また,一注視あたりの情報受容量は88bitsであった.中難易度文章と(96.0bits)と高難易度文章(46.3bits)の間に,有意水準1%で有意差があった.平均注視回数,平均注視時間については低難易度文章と(4.9times/100cha)と中難易度文章(6.7times/100cha)の間に,有意水準1%で有意差があり,中難易度文章(6.7tkmes/100cha)と高難易度文章(13.5times/100cha)の間に有意水準1%で有意差があった.これらのデータはこれまでの先行研究から得られている数値よりやや大きく情報受容単位が別の要因によって制御されている可能性が示唆された. そこで視線の定性的分析とタイ語話者へのインタビューを通じ,情報受容単位としてドーサコット(末子音)が機能する可能性があることが分かった.これは英語における空白,日本語における漢字のような形態的要因ではなく,認知的機能に基づいた情報受容単位を示すものであり,単語の終末部分にマーカーがあることは非常に特徴的であるといえる.今後,詳細に検討する必要がある.
|