研究課題
本年度は、東日本大震災による平成23年度科研費予算執行制限(H23年10月解除)のため、機材制作に約半年間余りの遅れが生じる事態となった。このため実験計画を大幅に変更し、既に所有している実験機材を組み合わせ、平成20-21年度に行った研究で得られた知見を元に応用研究を行った。筋電図など解析に時間を要することは行わなかった。代換え研究では8組の健常男性を対象に、車いす歩行における介助者の生体負担度と被介助者の心理不安を定量化した。実験室内のトレッドミル上にて30-105m/分で車いす介助歩行を行い(±5%および平地条件)、介助者の酸素摂取量、酸素化ヘモグロビン(HbO_2)、心拍数を測定した。被介助者からは心拍数と状態不安を示すState Trait Anxiety Inventory(STAIスコア)を定量化した。介助者の酸素摂取量(VO_2;ml/kg/min)を単位距離あたりの酸素消費量(Cw;ml/kg/meter)に換算し、傾斜および介助の有無ごとに計6条件の経済速度を求めた。その結果、平地条件および上り条件では、車いす介助時の経済速度が8-9%低下することが明らかとなった。しかしながら、下り条件では経済速度に変化は見られなかった。この結果は、重量物を"背中に配置"した過去の研究結果とは異なっていた(Abe et al.2008)。また、Cw値と活動筋の酸素摂取動態を意味するHbO_2の変動は各条件で連動していた。経済速度付近(72-88m/分)における被介助者の心拍数は有意に増加しなかった。STAIスコアも経済速度付近における有意な増加はみられなかった。これらの結果は、ヒトが物体を"押す"ときの生理的・心理的安全限界が、各傾斜条件における経済速度付近であることを意味しており、今後国内で増えることが予想される「老々介護」において役立つものと思われる。
3: やや遅れている
機材制作にギリギリの金額しか申請していないため、半年間の予算凍結によって機材制作が完全に止まってしまったことが要因としては一番大きい。また、精密機械の製作には製作会社側の事情も関わってくるが、関東を中心としたいくつかのメーカーでは細かいパーツが入手できなくなっていたらしく、本来なら申請金額以内で発注できるはずの「三軸加圧センサー」の製作を数社で断られたことも影響している。
上記の理由で「三軸加圧センサー」は製作できなかったため、製作が容易な「一軸加圧センサー」に変更した。このため、取り込める情報量が減ってしまうことは仕方がない。実験計画の中に足関節伸展運動を加えたのは、垂直方向の力(一軸方向の力)しか発生しない運動で研究目的を遂行するためである。
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健康・スポーツ科学研究
巻: 14 ページ: 13-16
Journal of Physiological Anthropology
巻: Vol.30, No.4 ページ: 153-160