唯一の直立二足歩行生物であるヒトの脚筋は、機能的にもユニークな特徴を有する。例えば、足関節を協働的に制御するヒラメ筋と腓腹筋を軽負荷に抗して持続的に収縮させると、時間経過に伴って大きな筋活動を示す時点と、休止や低下を示す時点が観察されることが知られている。ところが、このような相補的な筋活動は、運動様式が等尺性であるときや、低強度長時間であるときしか出現しないとされてきた。しかも先行研究の殆どは下腿三頭筋を対象としており、運動強度も最大筋力の30%までに限定されている。そこで本年度は、10名の男子学生を対象に、最大筋力の40%で大腿部協働筋群を等尺性収縮させた時の筋活動と平均周波数を観察した。 筋電図は次のように区分した。「前半」は運動開始から2-10秒までの8秒間、「中間」は運動時間全体の中間点の前後4秒(計8秒間)、「後半」は運動終了2-10秒前の8秒間とした。実際の運動継続時間は平均73秒(51~121秒)であった。 まず本実験では、各時間帯において大腿直筋の筋放電量が内側広筋および外側広筋より少ないことを観察した。これは大腿直筋だけが複合関節筋であることに関係していると考えられる。複合関節筋である大腿直筋は、離れた体節間でのエネルギーやパワーを伝達する役目を担っており、同筋の疲労は大腿部前面における唯一の複合関節筋の利点を失うことを意味する。このため、単関節筋である内側広筋と外側広筋が大腿直筋の疲労を抑制するように力発揮調節を行っているものと考えられる。次に、時間経過に伴う平均周波数の低下が全筋で観察されたが、時間毎に検討すると「中間」における外側広筋の平均周波数が大腿直筋より高い傾向を示した。これは協働筋間で稼働される筋線維が異なることを意味している。これらの結果は、高強度等尺性収縮でも協働筋間並びに協働筋内で相補的筋活動が行われていることを示唆するものである。
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