これまでにダイズにおいて開花期に関与する複数の遺伝子が同定されている。これらの遺伝子座間の関係性を明らかにしダイズの花成を制御する仕組みに対する知見を得るために、今年度は以下の実験を行なった。原因遺伝子が既知のダイズ開花期関連遺伝子座のうち、E1(開花抑制因子)、E2(生物時計の出力に関する遺伝子)、E3(光受容体遺伝子)、E4(光受容体遺伝子)、FTB1(新規の開花期QTLのうち生物時計を構成する因子の一つ)、FTH(FTB1とは異なる新規の開花期QTLのうち生物時計を構成する因子の一つ)を対象に、日本国産ダイズ品種であるエンレイの遺伝背景を基準に、それぞれの遺伝子座がエンレイの持つ対立遺伝子と異なるような準同質遺伝子系統を育成し、これらの遺伝子座とダイズフロリゲン遺伝子であるGmFT2aおよびGmFT5a遺伝子の発現およびその開花期における関係性について解析を行なった。短日条件(12時間明期、12時間暗期)育成した場合、全ての準同質遺伝子系統は25日から28日程度で開花し、系統間に有意な差は認められなかった。一方、長日条件(14.5時間明期、9.5時間暗期)では、それぞれの開花期関連遺伝子座の持つ効果に応じて、開花期に差が認められた。このような条件下において、開花時期とフロリゲン遺伝子、それぞれの開花関連遺伝子の発現量をリアルタイムPCR法によって解析を行なったところ、長日条件ではダイズフロリゲン遺伝子の1日を通した発現量とその開花期は高い相関(r=0.83~0.89)を示した。これらのフロリゲン遺伝子の発現調整にはE1遺伝子の発現量が最も高い相関を示し、晩生型の対立遺伝子を持つ系統についてE1遺伝子の発現量の上昇が認められ、一方、劣性型の対立遺伝子を持つ系統ではE1遺伝子の発現が有意に低下していた。それぞれの準同質遺伝子系統が持つE1遺伝子への効果は独立であり、複数の経路によってE1遺伝子の発現を制御することで、ダイズの開花期を支配していると考えられる。
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