研究概要 |
世界的な水資源の枯渇を背景として,その栽培に大量の水資源を必要とするイネでは特に節水と多収の両立が求められている.畑栽培稲作は,水田での湛水栽培と比較して,投入水量を大幅に削減できるだけでなく,水管理を適切に行えば,その生産力は湛水栽培と同等,あるいは上回ることがある.そこで本年度は特に,イネの粒重の水環境に対する変動に着目し,畑栽培条件下のイネの粒重の支配要因の解明を試みた.その結果,登熟期間中にある程度土壌乾燥が進んでも(地下20cmの土壌水ポテンシャルが-40kPa程度),イネのソース能およびシンク活性は湛水栽培よりも高く維持されており,湛水栽培を上回る粒重を達成しうることが明らかになった.しかし,穎花生産能力の高い品種では水分条件が良好な畑栽培条件下では,過剰な穎花生産により籾あたりのソース能が低下し,粒重は湛水栽培よりも低下することがあった.一方で,生殖生長期後半の水ストレスは,それが軽度であっても(地下20cmの土壌水ポテンシャルが-20kPa程度),籾殻の小型化をもたらし,登熟期間中のソース能およびシンク活性が高く維持されていても,籾殻の大きさが粒重を制限し,粒重は湛水栽培よりも小さくなった.以上により,水管理を適切にすれば,畑栽培稲作で高い粒重を達成することは可能であり,そのためには,特に生殖成長期後半の水管理が重要であることが示唆された.
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