研究概要 |
世界的な水資源の枯渇を背景として,その栽培に大量の水資源を必要とするイネでは特に節水と多収の両立が求められている.畑栽培稲作は,水田での湛水栽培と比較して,投入水量を大幅に削減できるだけでなく,水管理を適切に行えば,その生産力は湛水栽培と同等,あるいは上回ることが明らかになっている.昨年度までに,その畑栽培における多収イネの多収要因と収量制限要因を解明してきた.本年度は,昨年度に引き続き,ササニシキとハバタキの染色体断片置換系統群(CSSLs)を水田と畑で栽培することで,畑栽培での安定多収に必要な形質を特定することを目的とした研究を行った.なお,ササニシキの収量はそれほど高くないが収量は安定しており,一方で,ハバタキは収量の変動は大きいものの,畑条件下での多収が期待できる品種である.2年間の栽培試験の結果,水田ではササニシキの収量が全CSSLsの平均値に近かったのに対して,畑では大半のCSSLsがササニシキよりも高い収量を達成した.このことは,多収系統の染色体断片の標準品種への導入は,水田条件よりも畑条件でこそ有効であることを意味している。また,特に登熟歩合に有意な水環境×遺伝子型相互作用が認められ,この結果から,籾数が増加するなとして水田条件下で登熟不良となる系統ほど,畑条件で多収となることが明らかになった.さらに,分げつの角度が開く開張性を持つCSSLsは,ササニシキに対する物質生産量の比が畑条件下では有意に水田の値を上回り,開張性が畑栽培の物質生産に有利な形質であることが明らかになった.以上により,畑条件下での稲作の安定多収に必要な形質が明らかになった.本研究で得られた知見は,節水栽培における安定多収品種の育成に重要なものとなることが期待される.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画の通り,これまでに畑栽培稲作の多収要因,収量制限要因を解明でき,本年度はさらに,畑栽培稲作での安定多収に必要な形質あるいは染色体候補領域を同定できたため.
|