研究概要 |
降雨由来の水に依存した栽培を行う天水田は世界のイネ栽培面積の3分の1を占め,今後の食料需要の増加を賄うためのターゲットとされているが,降雨の不安定さなどのために生産性の改善は進んでいない.申請者らはイネにおいて酸化ストレス耐性が水ストレス耐性と交差耐性を示すことを明らかにしつつあり,簡易選抜方法を開発中である.本研究では代表的な天水田地帯であるタイ東北部において,現地品種を中心とした供試品種群にこの簡易選抜方法を適用し,実際の栽培条件下で光阻害程度などを測定しその有効性を検証することを目的とした. 現地協力機関であるタイ国ウボンイネ研究所で研究を行った.申請者がこれまでに酸化ストレス耐性について評価を行ってきた品種の中から,酸化ストレス耐性について特徴的な6品種を選択し,さらに現地育成系統より90系統選択して加え,メチルビオロゲン(MV)を利用した酸化ストレス耐性およびポリエチレングリコール(PEG)を利用した水ストレス耐性に対する簡易選抜を行った.選抜結果より酸化および水ストレス耐性の異なる20品種・系統を選択した. 上記により選択された20品種・系統を用いて,ウボン稲研究所内の研究圃場にて栽培実験を行った.研究所内に湛水および非湛水の2処理の水田を用意し,それぞれにおいて3反復乱塊法にて実験を行った.7月23日に播種,8月12日に移植した.植物体の酸化ストレス程度をクロロフィル蛍光測定による光化学系IIの最大量子収率(Fv/Fm)で評価した.リーフポロメータにより気孔伝導度を計測し,さらに葉身水ポテンシャルと計測し,水ストレス程度を評価した. 以上のことにより簡易選抜による酸化ストレス耐性が強い品種は,圃場試験においても酸化ストレス耐性を示す傾向が示された.しかしながら圃場における測定時期や環境によって,評価が異なる場合もあり,詳細な変動要因の解析が必要と考えられた.
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