研究概要 |
降雨由来の水に依存した栽培を行う天水田は世界のイネ栽培面積の3分の1を占め,今後の食料需要の増加を賄うためのターゲットとされているが,降雨の不安定さなどのために生産性の改善は進んでいない.申請者らはイネにおいて酸化ストレス耐性が水ストレス耐性と交差耐性を示すことを明らかにしつつあり,簡易選抜方法を開発中である.本研究では代表的な天水田地帯であるタイ東北部において,現地品種を中心とした供試品種群にこの簡易選抜方法を適用し,実際の栽培条件下で光阻害程度などを測定しその有効性を検証することを目的とした. 現地協力機関であるタイ国ウボンイネ研究所で栽培実験を行った.平成22年度に実施した幼苗を用いた酸化および水ストレス耐性評価実験(水・酸化ストレス耐性簡易評価法)により選択された系統・品種計22系統を用いた.研究所内に天水田の模擬環境として非湛水(Aerobic)区と湛水区を設け,それぞれにおいて3反復乱塊法にて実験を行った.6月に播種,7月に移植した.昨年度と同構に,植物体の最上位展開葉を用いてクロロフィル蛍光測定を行い,光化学系IIの最大量子収率(Fv/Fm)を評価した.同時に水ポテンシャル測定を行い水ストレス程度を評価した.地上部乾物重や葉面積などを計測し,酸化ストレスおよび水ストレスが乾物生産性に与える影響を評価した. また農家圃場において水稲葉を採取し,膜安定化指数(MSI)を計測することにより,酸化ストレス程度を評価した. 以上の実験により,天水田ではイネは酸化ストレスを受けており,酸化ストレス耐性に基づいた簡易選抜法は水ストレス耐性について一定の効果を持ちうることを明らかにした.これらの成果は,学会発表等により公表を行った.
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