平成22年度は窒素追肥時期が乾物生産、子実収量と収量構成要素および子実タンパク質含有率に与える影響を明らかにすることを目的として、平成20年播種の予備試験の結果とともに平成21年播種の結果を合わせて解析した。 これらの試験では、追肥の時期を茎立ち期から1週間~10日ごとに細かく設定し、収量および子実タンパク質含有率を調べることで、追肥時期が収量およびタンパク質含有率に及ぼす影響を解析した。その結果いずれの試験年次においても、止葉展開完了期~出穂・開花期前後を境にそれ以降の追肥がコムギの子実タンパク質含有率を高めることが確認された。ただし、平成21年播種試験では、対照区における生育量が大きくかつ子実タンパク質含有率が高かったため、前年得られたような有意差は検出できなかった。これは使用した圃場の地力が高かったためと考えられた。水田を含む2圃場で開花期前後の3時期に追肥を硫安によって行った試験でも、追肥によって子実タンパク質含有率は無追肥区と比較して有意に高くなった。しかし、追肥をした3時期の間では有意な差は見られなかった。したがって開花期前後の窒素追肥は子実タンパク質含有率を高めるのに有効であるが、止葉展開完了期以降の時期の違いによる効果の違いは大きくないと考えられた。 追肥時期の違いが子実タンパク質含有率に及ぼす影響について、窒素と炭素の動態から検討した。その結果、登熟期間中の窒素増加量は出穂後の追肥によって多くなる傾向が見られた。登熟前期のΔC(植物体炭素増加量)/ΔN(植物体窒素増加量)は追肥時期が遅くなるのに伴って小さくなった。登熟後期のΔC/ΔNはいずれの区においても登熟前期に比べて著しく小さくなった。これらの結果から、出穂後に追肥をした区では炭素に比べ窒素が優先的に蓄積した結果、子実タンパク質含有率が高くなったことが示唆された。
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