開花後の窒素追肥が子実タンパク質含有率を高める機構として、開花後に吸収された窒素は子実に転流する際、葉を経て澱粉合成に貢献してから子実へ転流する経路から葉での澱粉合成に貢献しないで直接子実に転流する経路に変化するという仮説を立てた。 1.開花期の窒素栄養状態が仮説の成立に及ぼす影響の検討 基肥と茎立期追肥の量を変えて栽培を行い、開花時の植物体の窒素栄養状態を変えたコムギに開花期窒素追肥を行い、子実収量や子実タンパク質含有率に及ぼした影響を解析した。その結果、開花期追肥量が等しくても、開花期地上部窒素蓄積量が多い区では少ない区に比べて、成熟期の穂窒素蓄積量に占める穂の開花前蓄積窒素量が多く、子実タンパク質含有率が高く、子実タンパク質含有率の増加割合は小さくなった。以上の結果から、開花期窒素追肥が子実タンパク質含有率を高める効果の違いには、開花期の地上部窒素蓄積量が影響することが示された。 2.これまでに得られた結果のとりまとめ 茎立期から登熟期の間に1~2週間間隔で窒素を追肥し、収量、子実タンパク質含有率および開花期から成熟期までの乾物重と窒素蓄積量の増加を無追肥区と比較した試験について、論文にとりまとめた。子実タンパク質含有率は、開花期以降の追肥によってのみ増加した。節間伸長期の追肥によって子実タンパク質含有率が高まらなかったのは、無追肥区に比べて穂の窒素蓄積量は増加したものの、開花前蓄積乾物量と開花後同化乾物量が多くなることによって穂の総乾物蓄積量も窒素蓄積量と同程度に増加したためであった。一方、開花期以降の追肥では、無追肥区に比べて開花後同化乾物量よりも開花後の同化窒素量が大きく増加したため子実タンパク質含有率が高くなった。しかし、登熟中期の追肥によっても開花後同化乾物重が増加した。このため、登熟中期の追肥窒素も葉における澱粉合成に貢献したと考えられた。
|